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宮城 全学長通信バックナンバー

第24回:見ても、見えていないこと。聞こえても、聞いていないこと。

2015.2.05

 30代の若い頃、私は博士研究員として、カナダのモントリオールにある大学で1年半ほど、過ごしたことがあります。カナダに行く前の最初の職場も大学です。大学は学術教育研究機関で、利益を求める機関ではありませんので、それ相応の教育の義務を果たし、自分の興味あるテーマで研究論文を書いていれば、報酬は自動的に貰えるものと思い、報酬の金額についても安いとも高いとも思うことなく、特別の意識は持っていませんでした。
 ところが、カナダで過ごした時の私の得る給料はその大学の教授が申請して得たグラント(研究資金)から支払われているものです。教授の得たグラントは、研究の成果を挙げるために得たわけですので、私はその目的に沿うように、成果を出さなければなりません。当たり前と言えば当たり前のことかもしれませんが、私は「報酬は働いた成果に対して与えられる」という意識を、この時初めて持ちました。そしてまた、成果を挙げ、教授が暗に要求していることに応えようと、一所懸命研究成果を挙げようと努力しました。その時学んだ、「報酬に対しては成果を要求される」、という考えは今も変わりはありません。得ている報酬にふさわしく働いているだろうかと私は自問し続けています。

 カナダの国旗は中央に楓(カエデ、メープルツリー)の赤い葉が図案化されたものです。秋になると、楓の葉の赤が目にしみてくるほど美しく映え、その美しさに魅了され、秋の来るのを楽しみに過ごしたものでした。
 あれから何十年も経った近年、私は再び秋のモントリオールに行く機会に恵まれました。しかしその時は以前と異なる新たなを発見しました。確かに楓の葉の赤は美しいものでしたが、それ以上に、かつて何度も行った町を見下ろす山、マウント・ローヤルの道端の「ナナカマド」が真っ赤な実を付け、その美しさ、見事さに驚いたものでした。以前にモントリオールで暮らした時には全く気が付きませんでした。目のレンズを通し、網膜には当然映っているはずなのですが、見ても、見えていなかったのです。このようなことは実際、誰にでもあるようで、目には入ってきても興味がないものは脳裏には残らないということでしょう。

 さらに遡って私の高校時代のことです。当時の数学のU先生は高校の同窓生であったせいか、愛校心の塊(かたまり)で、私たちの成長を心底思い、情熱を持って鍛えてくれたという記憶があります。先生の口癖は、「お前たち、頑張らなければならない。とにかく頑張らなければならない。人の3倍は頑張らなければならない」でした。その言葉は「3倍主義」という言葉で私の脳裏に焼き付き、能力がない自分は人の3倍の努力をしなければならないのだ、といつも思いながら、これまで実践してきました。考える力も、体力も、忍耐力も落ちてきている現在の私ですが、その思想は失われてはいません。
 高校同期の何人かに「3倍主義」のことを尋ねたことがあるのですが、誰一人としてこのことを覚えていませんでした。U先生は確かに「3倍主義」を言っていたはずなのですが。聞こえていても聞いていないこともやはりあるものです。何十年にわたり、U先生の思いを受け止めた私は幸せだったと思っています。

 どの大学の先生方でも、講義や演習で、“ここが大事である”、“この考え方が重要である”と思い、情熱を持って教えていると思います。また人生体験なども述べることもあるでしょう。こうした先生の教えがきっかけとなり、学生は別な何かを掴み取ることができれば、どんなにか素晴らしいことでしょう。一方、学生は先生それぞれの体験や経験の中から、一つでもいいので、先生の思いに応えて貰いたいと思います。

 

宮城 光信 前学長 学長通信バックナンバー

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最終更新日 2018年9月13日