教育・研究・設計で築く
建築家の素地

齋藤 隆太郎 准教授/
建築学科
建築用語としておなじみの言葉ですが、私事として捉えると、本学で学生を育て、研究論文を書き、建築を手がけるという3本の柱で、建築家として積み重ねるための素地でしょうか。着実にステップアップを続けながら、自分が作ったものを世の中に示していくことが何よりも大事だと思っているので、常に新しい発想の下で設計した建物が、より多くのリアクションが得られるよう励んでいきたいと思っています
研究者の道を歩んでからずっと、周りから「決まり切った設計図を描いてはいけない」と言われ続けてきたような気がします。岐路のないレールで列車を走らせるなんて何が面白いんだ、計画を立てる段階でうっとり惚けて終わってはいけないと戒めています。エネルギー事情が想定外の流転を繰り返している歴史が物語っている通り、何もかも理想の設計図に頼りすぎなのが失敗の原因ではないかと考えています。私としては、捉えどころのない欠片をかき集めて、それらを組み合わせたり復元したりを繰り返し、まだ世に無い事象を見出して解明することこそが醍醐味だと思っています。
学生の時期にこそトライ&エラーを恐れず、その度に生じる岐路から面白い未来に期待できる選択を楽しんでほしいと願っています。その過程で広げた経験の幅こそが、自分の可能性を高めるチャンスになるでしょう。だから、何度も消しては書き、消しては書きを繰り返して、描き切ることのない下絵づくりに、今は情熱を注いでください。
私たち研究者が手掛けている知の蓄積を、どのように社会へ還元していくか。そこに努力を注ぐ必要があると思っていますし、その実現のためには、やはり一人の力だけでは成し遂げられません。だから、同じ視点で目標を据えている同士を募り、一緒に力を合わせていく未来図を描ければと思っています。
私にとってエスキースを描くというのは、考えを止めないこと。上手くいくかわからないけれど、新たな着想に考えを巡らせている時間が一番楽しいと感じています。エスキースには下絵という意味がありますが、まずは私も鉛筆と紙だけを使って回路を書くことで、発想の出発点にしています。それを実現させるために、どのようなコイルが必要か、どういった実験をしなければいけないのかを検討しながらそこに計算式を加えていくので、A3の用紙が3枚、4枚と続く時があります。完成してしまうと途端に現実に引き戻されてしまうので、研究者としてはこの時間が最も至福ですね。
研究実験では、何でもやってみようという前向きの姿勢でいつも臨んでいます。あまり確信は得られなくても、誰もやっていない地点から挑戦したい。学生たちにもよく言っていますが、実験なんて失敗が9割9分。成功しなければいけないと思い込んで視野を狭めてしまうよりも、未知の試みに挑もうと意欲を高めていくことが大切です。純粋な興味から発する挑戦こそが、新たな発見が生まれる端緒になるのではと思っています。そんなポジティブな考えの下で、地道にモルタルを混ぜる毎日です。
私が取り組んだ研究が、産業界でのコスト試算や検証などを経て、新たな技術革新や製品開発の土壌になってくれることを望んでいます。そのベースとなる基礎的なデータを提供することが、私にとっての「未来のエスキース」だと考えています。世の中を驚かせるような科学の新発見は目立つし、誰の目にも分かりやすい成果なのかもしれません。私は、世の中が何を求めているかに嗅覚を働かせ、そのニーズに応えらえるような研究を続けていきたいと思っています。
一言で表すならば「可能性」でしょうか。多彩な知識や経験で自分を満たし、未来を描くための出発点とし、そこから、選択肢を増やすためのプロセスを歩んでいくことが重要だと考えます。また、この研究室では、学生のパーソナリティーを重視しています。誠実さが持ち味だったり共感性が高かったり様々な特性を備えた学生が見受けられますが、それこそが可能性の幅を広げるエッセンスとなるでしょう。それぞれの特性を活かして自分らしいデザイン実践ができるよう指導できればと思っています。